プロジェクトの概要
国際社会の焦点となっているアメリカと日本、中国を中心とした今日的な問題について、トランプ政権の動向を追いながら、多角的な状況分析を行う。
第5回研究会:「トランプのアメリカ経済は復活できるのか」
各国への種々の関税など、第二次トランプ政権は発足以来、派手な経済政策を導入し“Make America Great Again”を実現しようとしている。だが同氏の経済政策はアメリカ経済の復活にどれほどの意味があるのか。それについて、研究会メンバーでもあり長く経済分析に携わってきた佐志田晶夫氏が解説してくれた。

解説は公開された経済データを元にしたもの。初めに米議会予算局(CBO)の長期経済見通しThe Economic Outlook by Calendar Year, Projected Growth of Real GDP and Its Components、 Key Inputs in CBO’s Projections of Real Potential GDPに基づいてアメリカの基本的な経済動向と潜在成長力を検討し労働力の伸びと生産性向上、設備投資(資本の伸び)の重要性を説明。次いで人工知能(AI)による生産性向上についてMacroeconomic Productivity gains from Artificial Intelligence in G7 economies (OECD ARTIFICIAL INTELLIGENCE PAPERS June 2025 No.4)を参照し、AIのマクロ経済的効果はG7中で米国が最大でCBOの見通しを上回る可能性があると指摘した。労働人口(移民抑制政策等の影響)はCBOの資料からNet Immigration in CBO’s January 2025 and January 2026 Projections、Total Fertility Rate in CBO’s January 2025 and January 2026から分析した。
結論としては、AIによる生産性の向上が期待できる一方で労働人口の伸びが抑えられ、両者を勘案すると中・長期的な成長へのトランプ氏の政策のプラス効果はあまりない。ただし、アメリカ経済のダイナミズムとAIの効果を考えると、トランプ氏の政策の(悪)影響があっても潜在成長力は年率約2%を維持し、他の先進国を上回り続けることが期待できる。
もう一つ、トランプがよく口にする製造業の復活の成否については、U.S. Bureau of Labor Statistics via FREDでアメリカの産業別の雇用者数のデータや製造業の雇用者の推移を分析し製造業復活の難しさを指摘。造船業についてトランプ政権が発表したAmerica’s Maritime Action Planをチェックしこのプランでは造船業への投資や雇用者の大幅な伸びは期待しづらく、中国が世界シェア74%という高い生産能力を持ちアメリカのシェアは0.2%と極めて小さく、造船業の復活は不可能に近いと結論した。なお、アメリカの海軍力(艦艇数維持など)については、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートObstacles to Growing the Fleetのデータを参照し、艦艇建造にかかる時間の長期化やコスト増加などから、海軍力で中国に追いつかれないために克服すべきハードルの高さが指摘された。また鉄鋼業については2025年にアメリカは粗鋼生産量で日本を逆転したがその差はわずかで、ここでも中国の過剰生産があるため復活にはかなりの努力が必要だと説明した。
結局のところ、ITや金融、サービス産業などに優位性をもつアメリカ経済は、長期的な成長が鈍化傾向にはあるものの短期的には大きな変化(悪化)はない一方、トランプ政権の掲げる製造業での劇的な復活は見込むことができないようだ。トランプ政権が騒がしく様々な経済政策を披露していることに目を奪われがちだが、経済についての実際のデータをきちんと押さえ、実態を明らかにしたことが今回の発表の価値である。なお、米国の鉄鋼業の再生に関連して日本製鉄が莫大な投資を行うUSスティールについては、日本製鉄が成長の見込まれる米市場で生産の効率化に取り組むことで一定の成果が期待できるとされ、日本企業が自社の優位性を生かして米国製造業の再生に貢献することの意義が指摘された。 その後の質疑応答では「政策の不確実性による混乱や悪影響を考えれば、トランプ政権は何もしなくてもよかったのではないか。何らかの経済政策を導入するとしたら何をすればよかったのか」「結局のところ、トランプ政権が関税政策を導入したことで、インフレ圧力が高まり、トランプが強く望んでいる連邦準備制度理事会の利下げを逆に遅らせることになったのではないか」など「トランプの経済政策」について、活発な議論が展開された。

