プロジェクトの概要
国際社会の焦点となっているアメリカと日本、中国を中心とした今日的な問題について、トランプ政権の動向を追いながら、多角的な状況分析を行う。
第1回研究会報告
第1回の研究会のゲストスピーカーには、地政学・戦略学者であり現在は多摩大学大学院の客員教授や陸・海・空・統幕学校 部外講師などを務める奥山真司氏をお招きした。

研究会では、最初に研究会のメンバーである5人が1人5分ほど、それぞれの研究分野(インテリジェンス、安全保障、国際経済、世論、中国)からこの研究会のテーマに関連する最近の出来事について状況説明を行い、その後に奥山氏からの1時間の講演、その後のQ&Aという形式をとった。
奥山氏はトランプ政権の国防次官に就任したエルブリッジ・コルビー氏が「アジア・ファースト」を主張しているにもかかわらず、実はワシントンでアジアを重視するのはいまだに主流派ではないというコルビー氏の発言を紹介。また2011年10月にオバマ政権の国務長官だったヒラリー・クリントンがアメリカのアジア・シフトを表明したにもかかわらず、アフガニスタンや中東、ウクライナなどの問題もあり、実はアジア・シフトを行えていないことを指摘。そうした中で「アジア・ファースト」を展開するコルビー氏は、米外交政策の中で、かつてのネオコン(優越主義)とも孤立主義とも異なる優先主義者(Prioritisers)であることを説明し、同氏が軍事力重視、台湾の軍事地理的重要性を強調していることを述べた。そこで注意するべきなのは、「中国をつぶせ」ということではなく、経済的に中国の繁栄についても特に問題視はしていないということだという。
政権内でその考えが政策として実行されるには、内部での政治力学に大きく左右されるが、トランプ政権内では5つの派閥(アジア・ファースト派、経済ナショナリスト、MAGA強硬派など)があることを指摘。また大きく揺れるトランプ氏の言動を外交政策としてどう解釈するかについては、「削減と仕切り直し」「対中包囲網の形成」「単なる混乱」の3つ視点を示した。その上で、日本からこの地域における戦略を主張するチャンスであると提案した。
講演の後、Q&Aセッションに移ったが、その中で議論が伯仲したのは台湾をめぐる問題だった。アメリカがアジア・ファーストの政策をとるとした場合に、その中で中国が実際に台湾をいつ、どのような形で侵攻するのか、台湾自身がどれほどの強さをもって防衛するのか、台湾においてすでに中国によるかなりの世論戦や人的な囲い込みがなされているのではないか、そんな中でアメリカは本当に台湾を守る強い意志があるのかなどの熱い議論が展開された。 なお研究会には本学教員や学生の出席もあり、活発な会合だったことを申し添えておく。


(石澤 靖治:国際コミュニケーション学科)