王中忱先生「文化触変と知的生産の想像力ー「改革開放」の中国における日本文化の受容を例にしてー」」

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王中忱先生「文化触変と知的生産の想像力ー「改革開放」の中国における日本文化の受容を例にしてー」」

王先生は、「文化触変と知的生産の想像力ー「改革開放」の中国における日本文化の受容を例にしてー」」をテーマに、中国がどのように日本文化を受け入れたのかお話いただきました。

はじめにタイトルの「文化触変」について、「文化」とは何を意味するのか、本テーマに登場する「文化触変」とは何か、説明しました。『大辞林』によると、文化とは「社会を構成する人々」の「行動ないし生活様式の総体」を含みますが、主に人間の「精神的活動から生み出されたもの」を指しています。つまり、「個別文化」とは個々の人間ではなく、「それぞれの人間集団」が持つ文化を意味しています。「国際文化関係論」を提唱する平野健一郎先生によると「個別文化はそれぞれ独自の価値を」認めながら、「多数の文化的集団が併存する国際環境」すなわち「多少とも異なる文化同士が接触し合う状態」に着目し、「文化触変」という概念を提唱しています。平野氏によると「文化触変」とは、「他の文化との接触によって他の文化要素を受容し、自らの文化を変容させていく行為」を意味します。さらに平野氏は、「国際文化関係の個別具体例は多種多様であるが、文化触変という関係がもっとも意味深く国際文化関係研究は文化触変を基軸に進むはずである」と強調していることにも触れ、本発表では王先生は「文化触変」という概念をキーワードとし、「改革開放」以後の中国における日本文化の受容を国際文化関係の個別具体例として考察されました。

1978年は、中国の「改革開放」が正式に開始した年であり、中日友好平和条約が締結された年でもあると述べました。「改革開放」は経済の領域に留まらず、文化の領域においても影響を与え、中国では日本文化を積極的に受け入れるようになったと言います。

渡辺記者
1978年は一つのターニングポイントですね!

特に最初に爆発的にヒットしたのは、映画であり、次第に日本文学の翻訳や出版も盛んになったようです。1949年中華人民共和国樹立後、外国文学の翻訳や研究は、国家文化建設の一環として扱われていましたが、当初中国はソビエト連邦一辺倒の対外政策をとっており、中日間の国交樹立はしていなかった関係上、中国における日本文学の翻訳出版は沈滞していたと言います。統計によると、1949年10月から1953年にかけて中国では2151種の外国文学が翻訳・出版された内、日本文学においては徳永直の「静かなる山々」の一種のみでした。しかし、1954年から1965年にかけて、中国で翻訳・出版された日本文学作品の「単行本は約95種」となって、近代文学者の二葉亭四迷、樋口一葉だけでなく、最も注目されたのは、小林多喜二や宮本百合子など左翼文学者の作品でした。古典においては、「古事記」しか出版できなかったと言います。1972年に中日国交正常化したが、文化大革命の最中にあるため、外国文学の翻訳・出版はできなかったと言及しました。文化大革命が終息した1976年から、中国では「改革開放」政策を実施し、外国文学の翻訳・出版は著しく増加しました。1980年から1986年にかけて出版された単行本数のトップ5は、1位ロシア・ソビエト文学(990種)、2位イギリス文学(575種)、3位アメリカ文学(560種)、4位フランス文学(480種)、5位日本文学(420種)でした。

渡辺記者
当初はソ連やイギリスに比較すると少なかったのですね

21世紀に突入してから、日中は「政冷」状態が継続しているにも関わらず、中国において「日本文化のブーム」は現在も続いていると仰っていました。「政冷文熱」現象が起こった理由の一つとして、中日国交正常化、とりわけ友好条約締結後、中日文化や教育、交流を通して育まれた日本語ができる中国人は今現在の「文熱」を支えているのではないかと考察しました。

渡辺記者
面白い表現!

しかしながら、中国における日本書物の翻訳・出版市場を支えているのは日本語学習者に限らず、むしろ日本語文学に触れてから日本文学をより知りたい、世界各国の文化を知りたいとする情熱があってこそ、「文熱」現象が起こっていると述べました。

最後に、国家間の文化交流が政治や経済関係に大きく左右されることがある反面、政治や経済など利害関係の枠組みを超え、人間としての相互理解を促す側面もあると仰っていました。長い目で見れば、文化交流を通じ、より多くの人々が人間の助け合う共同体を構築する理念、またそうした理念を持たせる役割を果たすことができると明るい未来への希望について話していただきました。

記者の視点

王先生からは、主に日本の文学が中国ではどのように受け入れられたのか、清華大学で人文学を研究している視点から、日本語でお話いただきました。

中国で日本文学が流入され、現在、上野千鶴子さんの本が大ヒットしているように、日本においても気軽に本屋や図書館にあれば、もっと中国文学に親近感が湧くのではないかと思いました。久々に東方書店にいきたくなりました(笑)中国人がなぜ日本文学に興味を持つのか、どのような部分に面白さを感じるのか、中国の学生に実際に聞いてみたいです。互いに文学について共有することで、自分とは異なる部分に惹かれている点を知れることや同じ点に共感できることはきっと楽しいでしょう。

今後の日中関係の展望について、王先生が言及されていたように、現在が「政冷文熱」現象であろうと、近い将来「政熱文熱」現象になることを強く願っています。例え政治的、経済的な部分において、相手の意見や解釈をわかり合うことができなくても、相手の言っていることを真摯に受け止め、一度冷静になって相手の視点から考えることは必要だと思います。そのためには今、私たちができることは何なのか、必要とされていることに対してしっかり向き合い、熟考し、行動することが重要ではないのでしょうか。

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