横井裕先生「相互理解が進むための前提と方法についての経験論」

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横井裕先生「相互理解が進むための前提と方法についての経験論」

横井先生からは、「相互理解が進むための前提と方法についての経験論」をテーマに、ご講演いただきました。

1979年に外務省に入省した横井先生は、14年間中国にて勤務していた経験から相互理解の難しさと重要性についてお話をされました。「相互理解」の前提として、相互を一度外し、「理解」をするためには、その国や人に対する関心や一定程度の愛情は必要であり、自分とバックグラウンドが類似していると親しみを感じやすく、相手への理解が深まりやすいと述べました。双方の共通の範囲が広ければ広いほど理解しやすい反面、バックグラウンドに差があると理解しづらいと仰っていました。

1980年に北京大学に訪れた横井先生が見た中国は、これまでの生活とかけ離れているものであり、日中間において生活の差のみならず、経済の差も歴然と大きかったようです。国際通貨基金のグラフを用いて、1980年から2019年にかけて劇的に経済成長を遂げる中国について説明しました。中国の改革開放政策に対しては、日本が積極的かつ継続的に政府開発援助を行って来ました。近年になり、中国が経済発展を遂げた結果、その成果に自信を持つとともに、同時に日本人と中国人の共有できる経験やモノ、共通の娯楽が広まったといえる点においてプラスな側面をもたらしたと言及されました。特に日本に来訪する中国人が増加し、実際に訪日すると中国人の日本に対するイメージが改善したといいます。

渡辺記者
ネガティブな面を受け入れやすいけど、互いに共有できるというポジティブな面もあることは興味深いですね

次に日中の世論のグラフをもとに、2005年から2021年まで「親しみを感じる」とした比率を合わせ、世代や年代によって一進一退の状態について説明しました。中国人の日本に対するイメージが劇的に変わった理由として、第一に、中国が対日関係の改善を念頭においていたこと。第二に、2017年頃から日本の映画や文化が浸透するようになったからだと述べました。

渡辺記者
なるほど!

ただし、尖閣諸島中国漁船衝突事件発生後の2013年には中国人の92%がネガティブな印象を持っていましたが、2019年には52%になり、徐々に下降しました。日中における世論のグラフから互いに理解する背景の共有できる幅が世代によって大きく異なることに触れました。最後に北京大学の学生から、立場の違いにより、どうしても対立が解消しない場合にどうすれば良いか相談を受けた際に、賛成と反対に分かれ、交互に自国と相手国の立場でロジックに従って主張し、ゲームと割り切り、行ってみてはどうかとアドバイスをしたそうです。

渡辺記者
実際にやってみたいと思いました

冷静に事実関係を挙げ、相手側に立つと、そこから新しい発見や自分も同じことを相手に伝えている可能性もあるという気づきを得られ、相互理解の促進に繋がると述べました。

渡辺記者
この重要性を改めて再確認しました!

外交官の視点から、日本の領土を相手に譲ることは立場上あり得ないですが、自分の意見に固執しながら意見交換しても、議論が一向に進行しなければ、相手を理解することさえできなくなってしまいます。相手の立場になって一度考え、共通の利益を達成することが外交官の任務であると話していただきました。相互理解を進めるには相手に対する関心を持つことであり、次に相手の立場に立てることであると総括されました。この2点を意識すれば、たとえある問題が現在解決できなくとも、少し時間が経って見方を変えてみれば共通の地盤が見えるかもしれないと日中関係の明るい未来について言及し、締め括っていただきました。

記者の視点

横井先生からは中国大使を務めていた経験を踏まえ、相互理解の前提と方法についてお話いただきました。横井先生の「好きの反対は嫌いではなく、無関心」という言葉にはっとさせられました。相互理解を促すためには、前提として関心を持つことが不可欠であり、関心を持つことで相手の理解が深まるため、相手を理解するには興味を持ち、知ろうとする姿勢が非常に重要だと感じました。長年外務省でお勤めされた経験を踏まえ、キャリア面では、仕事において辛いと思ったことはなく、楽な道よりも難しい道を選んだ方が良いと励ましのお言葉をいただきました。

まずは相手を知ろうとし、関心を持つことが重要です。その関心がたとえ、スポーツであろうと、映画やドラマであろうと、なんだって構わないと思います。小さな関心こそが、これからの将来を担う私たちにとって、今後の日中関係をよりよく築けるために、欠かせません。個人的な話になりますが、憧れである外交官の方から貴重なお話を聞けたことは大変光栄でした。フォーラムの最後に横井先生が仰った言葉を胸に刻み、自分の夢に向かって邁進していきたいと思います。

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