内容
報告者のテーマは非常に多岐にわたるが、総じてこれまでの日本の研究では十分に解明されてこなかった新知見が示されたシンポジウムであった。いくつか事例を挙げて紹介しておきたい。
文革研究のみならず、現代中国研究の分野で顕著な研究成果をあげてきたウォルダー氏の報告はまさに文革研究に「新方法」を感じさせるものであった。ウォルダー氏は全国の県誌の内容をデータ化し、それを分析することによって、文革の進展を総体的に把握できる可能性を示した。
特に(1)1967年に起きた1月革命以降の造反運動の拡大プロセス、(2)奪権闘争の拡大プロセス、(3)1967年以降の軍隊の文革への介入と暴力との相関関係、(4)革命委員会と暴力との相関関係などを例に、全国的な動きを統計的に示した報告内容は、日本の文革研究の今後の進展にとって、きわめて示唆に富んだ内容であった。




ウォルダー氏の報告が「新方法」であるとすれば、宋永毅氏の研究は「新資料」の重要性を強く印象付ける内容だった。宋永毅氏は、文革の犠牲者数に関する公式発表と秘密档案の数的な差異を具体的に示し、文革研究における「史料学」の重要性を強調している。簡単に言えば、公式発表においては被害の状況は極めて過小報告されており、実際の秘密档案で示されている数値とは大きな開きがあるのである。これは今までも予想されていたことではあるが、これだけ細かく具体的な差を数値として示したのは宋永毅氏の研究が初めてである。また、こうした新資料に基づきつつ、宋永毅氏は文革期の広西で発生した大虐殺と性暴力についてその内容を子細に明らかにした。

ここで紹介したのは本シンポジウムのほんの一部にすぎないが、それでも、これまでの日本の文革研究にはない新たな知見であることが理解できよう。