文革シンポジウム

国際シンポジウム「文化大革命研究の新資料・新方法・新知見」報告

中国文化大革命研究の新資料・新方法・新知見
―50周年からの再スタート
The 50th Anniversary of the Chinese Cultural Revolution:  New Materials, Methods, and Findings

文革50周年となった2016年11月6日、学習院女子大学国際学研究所はAndrew Walder氏(スタンフォード大学)、宋永毅氏(カリフォルニア州立大学)、Yang Su氏(カリフォルニア大学)谷川真一氏(神戸大学)、チョロモン氏(東京大学・院)、張中復氏(台湾・政治大学)を招いてシンポジウムを開催した(静岡大学人文社会学部アジア研究センターとの共催)。コメンテーターは大野旭(静岡大学)、金野純(学習院女子大学)。


Andrew G. Walder
“Rebellion and Repression in China, 1966-1969”


宋永毅
「文革史料学和広西的大屠殺」


Yang Su
“Studying Mass Violence Using Xianzhi Records and Survivor Interviews”


谷川真一
「大衆組織の武装・動員解除、派閥統治、そして抑圧的暴力の拡大:陝西省各県の事例から(1967-1971)」


チョロモン
「中国文化大革命とモンゴル人エリートの動向:作家ウランバガナを事例に」


張中復
「従反共的道統論到国族主義的転型:中華文化復興運動在台湾」

内容

報告者のテーマは非常に多岐にわたるが、総じてこれまでの日本の研究では十分に解明されてこなかった新知見が示されたシンポジウムであった。いくつか事例を挙げて紹介しておきたい。

文革研究のみならず、現代中国研究の分野で顕著な研究成果をあげてきたウォルダー氏の報告はまさに文革研究に「新方法」を感じさせるものであった。ウォルダー氏は全国の県誌の内容をデータ化し、それを分析することによって、文革の進展を総体的に把握できる可能性を示した。

特に(1)1967年に起きた1月革命以降の造反運動の拡大プロセス、(2)奪権闘争の拡大プロセス、(3)1967年以降の軍隊の文革への介入と暴力との相関関係、(4)革命委員会と暴力との相関関係などを例に、全国的な動きを統計的に示した報告内容は、日本の文革研究の今後の進展にとって、きわめて示唆に富んだ内容であった。

ウォルダー氏の報告が「新方法」であるとすれば、宋永毅氏の研究は「新資料」の重要性を強く印象付ける内容だった。宋永毅氏は、文革の犠牲者数に関する公式発表と秘密档案の数的な差異を具体的に示し、文革研究における「史料学」の重要性を強調している。簡単に言えば、公式発表においては被害の状況は極めて過小報告されており、実際の秘密档案で示されている数値とは大きな開きがあるのである。これは今までも予想されていたことではあるが、これだけ細かく具体的な差を数値として示したのは宋永毅氏の研究が初めてである。また、こうした新資料に基づきつつ、宋永毅氏は文革期の広西で発生した大虐殺と性暴力についてその内容を子細に明らかにした。

ここで紹介したのは本シンポジウムのほんの一部にすぎないが、それでも、これまでの日本の文革研究にはない新たな知見であることが理解できよう。

総合コメント

Walder氏の報告によって、われわれは文革研究になおも方法論的な革新が可能であることを学び、また宋永毅氏の報告によって、史料の発掘とディテールの描写がいかに重要かについて学ぶことができた。

さらにYang Su氏や谷川真一氏の報告は、統計的な量的データと個別具体的な質的データの結合という意味で、今後の文革研究の一つの方向性を提示しているし、チョロモン氏や張中復氏の報告は、社会運動に偏りがちな文革研究に、新たなテーマを切り開く可能性を秘めた報告だった。